子どもで一番多い手術・・・それは脱腸!

小児外科医100人に聞いたら全員が同じ答えになるかもしれません。

それは「鼠径ヘルニア」です。そけいと読みます。子どもの20人に1人と言われています。

『え?もうちょうじゃないの?』と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

National Clinical Database(NCD)の報告によれば、2020年の日本での16歳未満の小児の手術で、虫垂炎(もうちょう)の手術数は7,798例、鼠径ヘルニア関連は14,980例で、なんと鼠径ヘルニアの手術は虫垂炎の手術の倍近くありました。

「え?ヘルニアって腰じゃないの?」と思われる方も多いかと思います。

実はヘルニアの語源はラテン語で「突出、膨らみ」という意味から来ています。

簡単に言えば「飛び出す」ですね。

腰の椎間板が飛び出す腰と「腰椎椎間板ヘルニア」、臍が飛び出すと「臍ヘルニア」、俗に出臍など、ヘルニアとつく病名は他にもたくさんあります。

鼠径ヘルニアは昔はよく「脱腸」と呼ばれていました。「鼠径から腸が飛び出る」ですね。

じゃあ鼠径ってどこを指すのかですが、おまた、足の付け根のところを指します。

医学生のとき、コマネチの時になぞるラインと教わりました。

ここからはマニアックなので、読み飛ばして良いのですが、そもそも、鼠径の「鼠」はネズミのことで、「径」は道のことで、「ネズミの通り道」に似ているから昔の中国の医学者がつけたと聞きました。人間では何が通るかというと、ネズミではなく、精巣、つまり睾丸が通ります。生まれる前に精巣はお腹の中でできて、この鼠径にある道(鼠径管)を通って、陰嚢まで降りてきます。これを精巣下降といいます。ちなみにこれが途中でとまると停留精巣といい、これも小児外科で手術が必要な病気です。そして、精巣が降りる時に一緒にお腹の袋(腹膜)も一緒に伸びてきます。サヤみたいな出っ張りなので、「腹膜鞘状突起」(ふくまくしょうじょうとっき)と言います。これは生まれる前に無くなるんですが、おまたに残ってしまうお子さんがいて、そこに腸が入り込むと膨らみます。これを「鼠径ヘルニア」と言います。ちなみに腸が出るほどの袋はなくて、お腹の中にある水(腹水)だけが通って膨れると「水腫」と言います。

鼠径ヘルニアは自然に治る確率が低く、また放っておくと腸がはまり込んで腐ることがあるので(嵌頓:かんとん)、見つかったら早めに小児外科専門施設で手術をすることをお勧めします。

手術の方法は、昔から行われている鼠径部を2cm切って、先ほどの「腹膜鞘状突起」の袋の根元を縛る手術と、腹腔鏡を使った手術があります。NCDの2020年の報告では14,980例のうち、従来の方法が7,237例、腹腔鏡が7,806例で、腹腔鏡の方が初めて多くなりました。どちらの手術方法も傷跡は綺麗で、予定通りであれば2泊3日で退院できます。鹿児島市内では鹿児島大学病院と鹿児島市立病院に小児外科があり、紹介させていただいております。

おまたが腫れたらそのまま放置せず、ぜひ小児科を受診してください。このブログでは伝わりきれないところを直接お話しさせていただきたいです。

2025年05月27日