普段から懇意にしている後輩から「先生、ブログさぼりすぎじゃないですか」と注意してもらいました。言い訳はしません。初心に立ち帰り、週1回の更新を目指していきます。
今日はこどもの血便について、思うところを述べたいと思います。
一言に血便といっても、いろんなタイプがあります。
赤ちゃんなのか、幼稚園生なのか小学生なのかなど年齢によっても違いますし、便の中に点々とついている血便なのか、全体が赤いのか、線になっているのかなどの性状の違いや、そもそも硬い便なのか、下痢なのかや、真っ赤な血液がついているのか、黒っぽい便なのかなど、さまざまな特徴から病気を予想して診断をしていきます。
診断に大変役に立つのが写真です。保護者の皆さんがスマートフォンで写真を撮って見せてくれます。医者になったころは紙カルテでポケベルも持たしてもらっていました。本当にいい時代になりました。
自分が血便のご相談をいただいた時に頭の中で考えていることをざっくりと言語化してみました。個人的にその場で絶対に見逃してはならないもの2つだけ赤にしました。もちろんどれも見逃したくないですが、この2つの疾患は時間勝負です。ここから身体所見やレントゲン、エコー、血液検査を使って絞り込んでいきます。
・裂肛・・・緊急性はない。一番多い。1歳すぎから3歳くらいの便秘の子が多い。硬い便の一部に真っ赤な血がついている。肛門の周りにいぼができる(見張りいぼ)。便秘がなくて血便だと他の疾患の可能性が高くなる。
・腸炎・・・緊急性はあまりないが原因によっては緊急。まあまあいる。腹痛だけの時は虫垂炎(盲腸)と見分けが難しい時がある。血便が多いのはウイルス性より細菌性。血便、下痢、腹痛がある時は便の培養検査を出す。「腸管出血性大腸菌(O−157含む)、サルモネラ、キャンピロバクターが血便の3大起因菌だよ」と研修医のときに教えてもらった言葉をずっと患者さんに説明してきた。O−157からのHUS(溶血生尿毒素症候群)という命に関わる病気の可能性がある。ほとんどが1週間以内によくなるが、緊急性があることもあるため、全身状態をしっかりと見ながら対応していく。
・リンパ濾胞過形成・・・生後半年までの母乳栄養の赤ちゃんにまあまあいる。黄色の便の中に赤い粘液状の点々がちょっとだけ混ざる。元気。「赤ちゃんはリンパが発達するから便が出る時にちょっとだけ血がでるんだよ」と若いころ習った。赤ちゃんの血便は怖いけど、これは大丈夫。オムツを持参してもらう。
・腸回転異常・・・超緊急。生後1ヶ月までの胆汁性嘔吐、血便は絶対にすぐに鹿児島大学病院小児外科(すず小児科から車で10分)に紹介する。可能性が高くないと思っても、様子を見ることは絶対にしないことにしている。時間が経つと腸が捻れて血流が悪くなり、腸が腐ってしまうことがあるため。腸が短くなるとその子の一生に関わる。
・腸重積・・・緊急。発症して24時間以内だと8割手術にならず高圧浣腸でいける。生後半年から2歳くらいのイメージ。嘔吐、いちごゼリー状の血便があったらすぐエコーして診断して紹介する。口側の腸がお尻側の腸の中に入り込んでしまう病気。よくあるエピソードは「1歳くらいのややふっくらした男の子が風邪のあとに腸のリンパが腫れて、体がうんちと間違って奥に送ろうとして、自分の腸が入り込んでしまう」というもの(医学的に正確ではない言い方です)。年長の子の場合は後で述べるメッケル憩室という腸のでべそみたいなものが原因になることもある。
・若年性ポリープ・・・緊急性はない。3歳から5歳くらいのイメージ。便の表面に赤い綺麗な一筋の血液が付着している。できる場所はお尻に近いことが多く、たまに排便の時にお尻から出てきてお母さんがびっくりして受診することがある。治療は内視鏡で切除なので後日紹介する。
・メッケル憩室・・・場合によって緊急性あり。手術の時にみると、小腸の一部がやきもちみたいに膨らんでいる。生まれる前の臍の緒と腸の間にあった卵黄管という組織の名残。2%くらいの人にあるようで、無症状のことが多い。たまに出血や腸閉塞で発症する。かなり大量の血が出て、保護者の方を驚かせる。腹痛で盲腸と思って手術したらメッケルだったということもあった。胃酸を分泌することがあり、出血の原因となる。シンチという検査で診断できることがある。治療は手術。紹介する。
・炎症性腸疾患・・・最近増えてきている。潰瘍性大腸炎、クローン病。10歳代が多い印象。「体重が減ってきた、夜中に腹痛で起きる、血液混じりの汚い下痢」は疑って鹿児島大学病院小児科に紹介する。
・IgA血管炎・・・緊急性があることもある。前はアレルギー性紫斑病と言われていた。
足が痛くてぶつぶつができて整形外科に行ったり皮膚科に行ったりする。めちゃくちゃお腹が痛くなることがあって紫斑が出る前だとわからなくて手術されることもある。お腹が痛い時はステロイドが効くので紹介して入院になる。
・消化管アレルギー・・・乳児期に多い印象。原因を突き止めるのが難しいので、まずは緊急性がある外科的な病気をしっかり否定してから疑ったらアレルギー専門の先生に相談する。
小児科、小児外科で学ばせていただいた経験をフルに使って正確に診断して緊急のこどもに正しい対応ができた時の喜びは得難いものがあります。ご紹介させていただく病院の先生方には本当に感謝しかありません。患者さんやご家族、病院の先生たちの負担を減らすため、日々しっかりと丁寧に診療していきたいと思います。